プライベートクラウドとは
プライベートクラウドは1つの組織だけが利用する専用のクラウド環境です。米国商務省の機関であるNIST(National Institute of Standards and Technology)の定義では、複数の部門が利用者になる場合も含みます。たとえば、法令や取引先との契約で、他の組織と設備を共有できない業務があります。そうした業務でも、1つの組織の専用として、利用者の申請で自動に用意され、利用量が計測されるクラウドの利用形態を使えるようにする形が、プライベートクラウドです。専有の範囲は、構成と契約で異なります。通常は他の組織と同じ設備を共有するパブリッククラウドとは、専用で利用する点が異なります。

設置場所は自社の施設でも事業者のデータセンターでも成立します。オンプレミスは設備を自社の施設に置く形を指し、プライベートクラウドは専用で利用するクラウドの利用形態を指します。自社の施設に自社で構築する形は、どちらにも該当します。専有が必要かどうかの判断は、後の節で扱います。
仮想化しただけの基盤との違い:申請による用意と計測
仮想化は1台の物理サーバーを分割して、複数の仮想サーバーとして利用する技術です。集約しただけの基盤では、利用を希望する人が依頼票を提出し、管理者が作業して提供する運用が残ることがあります。プライベートクラウドは、これを申請による自動の用意にし、あわせて利用量を計測します。
仮想化基盤と区別する2つの特徴
NISTが示すクラウドの5つの特徴には、広いネットワークからの利用、資源の共有利用、需要に応じた拡縮も含まれます。このうち、仮想化だけでは実現しにくい次の2つを、仮想化基盤と見分ける実務上の目印にします。
- 自己申請による用意(オンデマンド・セルフサービス): 利用者が人手なしで、必要な資源を自分で確保できる
- 利用量の計測(メジャード・サービス): 資源の使用量を計測して報告できる

VMwareのクラウド管理製品やOpenStackなどの基盤ソフトが、この2つの機能を担います。
社内資料にプライベートクラウドとある場合
社内資料にプライベートクラウドとあっても、自己申請による用意と利用量の計測がなければ、実体は仮想化基盤である可能性が高くなります。依頼が月に数件で構成も安定している場合は、依頼票による運用の継続が費用の面で合理的なことがあります。これはこの記事の助言です。
パブリッククラウド上の論理的なネットワーク(VPC)は設備を専有しないため別です。
設備と運用の分担による形
NISTの定義は設置場所と運用者を限定していません。専用で利用し、クラウドの特徴を備える場合は、次の表のどの形も該当すると解釈できます。
| 形 | 設備の置き場所 | 基盤の運用 | 自社の担当 |
|---|---|---|---|
| 自社構築 | 自社の施設 | 自社 | 設備から部門向けの窓口まで全部 |
| ホステッド型 | 事業者のデータセンター | 事業者 | 仮想サーバーの中のソフトとデータ(契約で確認) |
| 自社設置の事業者運用 | 自社の施設 | 事業者 | 設置場所の電源と回線、仮想サーバーの中のソフトとデータ |

ホステッド型
事業者の設備に設置して運用も委託する形は、ホステッド型と呼ばれ、NISTのoutsourced private cloudに対応します。OVHcloudのHosted Private Cloudは、ホステッド型の例です。専用のサーバー、ストレージ、ネットワーク、データセンターの場所を一式で提供し、基盤の構築と保守は事業者が担います。国内でもKDDIが2021年に、VMwareの仮想化基盤の設計構築から保守運用までを月額料金で請け負うサービスを開始しました。現在の提供内容は各社に確認します。
自社設置の事業者運用の例
AWS(Amazon Web Services)が所有し運用する機器を自社の施設に設置するOutpostsは、自社設置の事業者運用に近い例です。設置場所の電源や回線などの条件は自社が満たします。OutpostsはAWSのリージョンの拡張として提供され、リージョンとの接続を前提にした、ハイブリッド向けの製品として説明されています。接続なしに自己完結で稼働する形ではありません。NISTの定義は所有者と運用者を限定しないため、専用で利用する構成は該当すると解釈できます。これは解釈です。
ホステッド型で確認する専有の程度
ホステッド型は専有の程度を確認します。パブリッククラウドと同じ分離の仕組みだけで区分しているなら、事業者運用の専用環境でも実質はパブリッククラウドと同じ構成になるとされています。契約では物理設備、ネットワーク、管理系のどこを専有にするのかを書面で確認します。
自社専用の環境は必要か
専有を求める要件がない場合は、専有を前提にしたプライベートクラウドを選ぶ理由が弱くなります。要件の対象となるシステムが複数あり、基盤を維持できる規模と運用担当を確保できる場合に、導入を検討します。以上は助言です。複数のシステムの要件、規模、運用担当のうち欠けるものがある場合は、別の手段を先に比較します。
専有を求める要件
専有を求める要件の例です。有無は法務や監査にも確認します。
- 法令や所管官庁の指針、取引先との契約が、物理設備や運用者を限るよう定めている
- 既存ソフトのライセンスがソケット数や物理コア数に紐づく形で定められている
- 社内規程がデータの置き場所や運用者を限定している。規程が理由の場合は規程を再検討できないかを先に確認する
専有要件の広がりと選択肢
要件の広がりに応じて、選択する手段が変化します。
- 要件がない: 専有を前提にせず、パブリッククラウドで十分に対応できる
- 1つか2つのシステムだけにある: その部分だけ、専有の物理サーバーを賃借するか、ホステッド型を利用する
- 複数のシステムで専有が必要になる: 規模と運用担当を確保できるなら、プライベートクラウドの導入を検討する
専有の物理サーバーの賃借には、AWSのDedicated Hostsがあります。一社専用で賃借でき、ライセンス条件や社内の遵守要件への対応が用途です。
検討する場合の規模・費用・人員
導入を検討する場合の目安です。出典のない概算で、数倍の差が生じることもあります。
- 規模: 物理サーバーが数十台以上、利用する部門やチームが5から10以上、用意の依頼が月に数十件以上のいずれか、または複数に該当する
- 費用: 自社構築は初期に数千万円から1億円規模で、設置場所の整備費は含まない。ホステッド型は月額で数十万円から数百万円規模で、最低契約期間や初期設定の費用を伴うことが多い
- 人員: 基盤の運用担当は休暇と夜間の対応を含めて3から5名。2名は下限で、障害対応を事業者に委託できる契約がなければ不足する
規模の目安を著しく下回る場合は、仮想化基盤のままにするか、必要な部分だけ専有の物理サーバーを賃借する案を先に比較します。これは助言で、費用は条件によって変わります。

プライベートクラウドを選択しない場合
次の場合は選択しないほうが費用と運用の面で妥当です。
- 負荷が数倍に急増する業務: 容量が想定した負荷に固定されるため。NISTの資料は小規模な自社設置の環境では上限が従来のデータセンターと同程度になると指摘している
- 運用担当を確保できず、障害対応の委託契約もない: 運用を担う人員が不足するおそれがある
基盤の委託と自社保有の選択
運用担当を確保できないなら、ホステッド型で事業者に委託するほうが現実的です。設備の購入は不要ですが、回線の増強、条件の交渉、既存システムの移行、教育といった導入時の費用は残ります。契約では最低契約期間、更新時の価格改定の条件、解約時のデータの返却方法を確認します。自社で保有する選択が合理的なのは、次の条件を満たす場合です。
- 既存の設備と運用の知識を継承できる
- 基盤を細部まで制御する理由がある
- 担当を確保できる
ハイブリッドクラウドとプライベートクラウドの関係
専有が必要な業務だけをプライベートクラウドに、ほかをパブリッククラウドに配置し、データやアプリを移植できる技術で接続した構成は、NISTの分類ではハイブリッドクラウドに該当します。
効果とコスト・リスク
効果
- 専有が求められるシステムでも、用意の待ち時間が短くなる
- 自社設置なら処理を配置する場所の候補を自社が選択できる
コストとリスク
- 初期コスト: 設備、ソフト、構築作業の費用が先に発生する。クラウドを管理するソフトが無償でも既存の設備を利用しても、自社設置では大きな初期費用がかかるとされている
- 固定の容量: 容量をピークの水準に設定すると平常時は余剰になり、不足すれば増設の調達まで待機する
- 運用人材: 仮想化、ネットワーク、ストレージ、用意と計測の仕組みを管理する担当が継続して必要。従来のITの技能のほかに、クラウドの技能も必要になることがある
- 障害時の備え: 単一の拠点では、遠隔地のバックアップや災害時の復旧用の設備が必要になることがあり、その分の費用がかかる
- 撤退: 基盤ソフトを他の製品に変更するには、仮想サーバーの移行と再構築が必要になる
- 提供元の方針変更のリスク: 基盤ソフトの料金や提供形態は提供元が決定する
- 例としてVMwareの親会社であるBroadcomは、2023年12月に買い切りライセンスの販売終了とサブスクリプションへの一本化を発表した。購入済みの買い切りライセンスは継続して使用できるが、サポートの更新はできなくなり、サブスクリプションへの移行が案内されている
- 自社構築にも事業者の月額にも影響し得るため、見積もりを再算出する

よくある誤解
専用の環境なら情報漏えいの心配がない
自社設置の利用者は、通常、自社の構成員と承認された来訪者や取引先とされています。ただし、自社設置でも複数の利用者の処理が同じ設備の上で稼働する場合があり、分離の不備が部門間の情報漏えいにつながり得るとも指摘されています。部門間の分離は別に設計し、内部の不正への備えも継続します。
自社設備に設置しないとプライベートクラウドではない
実際は事業者のデータセンターに設置するホステッド型も含みます。
事業者に委託すれば運用の人手は不要
実際は基盤を事業者が担っても、ホステッド型の多くでは仮想サーバーの中のソフトとデータの運用は利用者の担当です。範囲は契約で確認します。委託すると運用の人手は減りますが、なくなりません。
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