DXとは
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業がビジネス環境の激しい変化に対応するため、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービスと、顧客に価値を提供して収益を得る仕組みであるビジネスモデルを変革し、業務や組織、仕事の進め方、企業文化・風土も変革して、競合に対する強みである競争上の優位性を確立することと定義されています。この定義は経済産業省のデジタルガバナンス・コード3.0に基づきます。
架空の例は会員制スポーツクラブです。紙の申込書のタブレット入力は、デジタル化に限られます。来館が減少した会員ほど退会しやすいと来館記録から分かり、案内や料金を変更して退会者を減少させると、DXです。

帳簿を紙から表計算ソフトに移行するのは記録や集計の手段の変更であるのに対して、その数字を確認して商売のやり方を変更するのは、DXに近いです。
何を解決するために登場したか
業務にITを導入して効率化しても、価値や収益の取り方が変化しなければ、既存ビジネスの改善に限られます。デジタルの力を効率化・省力化を目的としたITによる既存ビジネスの改善に限定せず、新たな収益に資する付加価値の向上や新規ビジネスの創出に配分することが重要とされています。
ITシステムが技術的負債となることを防止することも、ビジネスの持続性を確保する条件とされています。技術的負債は設計や保守の問題で、後の変更や運用の負担が増加する状態です。

効果
- 社内の効率化。成果が出ていると回答した企業の70.9%がコスト削減を選択した。調査は2026年に実施されたIPA(情報処理推進機構)のDX動向2026で、国内企業1,799社から有効回答を得た
- DXにより生産性や従業員の仕事への意欲が向上し、結果的に優秀な人材の獲得に資するとされている
- 顧客や収益への成果。成果が出ていると回答した企業のうち売上高の増加を選択したのは17.9%、利益の増加は19.6%だった

コストとリスク
- 担い手の人材。DXへの取り組みがない企業のうち従業員101人以上300人以下では、取り組みの意欲はあっても担当できる人材がいないという課題が示された。人材の確保方法に応じて、採用、育成、評価、外部人材の活用の費用を想定する。外部リソースの活用が望ましい方向性とされているが、何を変更するかの決定は経営者が担う
- 運用、保守、改修の費用。技術的負債が生じないよう体制を整備し、再びレガシーシステム化する事態を避ける仕組みの整備が望ましい方向性とされている。レガシーシステムは老朽化や複雑化で変更しにくくなったシステムである
- 導入費以外の費用。データの整理と移行、既存システムとの連携、移行中の旧システムと新システムの並行運用、現場への定着には、費用と時間を要する場合もある。作業時間が短縮されても支出がそのまま減少するとは限らないため、削減した時間と減少する支出を区分して評価する
- データの保護。サイバーセキュリティ対策は、DX推進の前提となる必須の投資とされている。利用目的や閲覧できる人を定め、攻撃された場合に事業を継続するための計画も含めて費用を想定する
- 成果が把握できないまま継続するリスク。DXを実施している企業の26.8%は成果が分からないと回答した
ITツールを導入すればDXを実施したことになるか
ツールの導入だけではDXを実施したことになりません。導入で何が変化するかで区別します。
- 変化するのが社内の作業時間やコストだけなら、効率化の成果。DXと呼ばなくても評価でき、最も多く回答される成果もこの領域
- データを活用して、顧客のニーズに対応する提供の仕方、収益の取り方、組織の動き方まで変化し、競争上の優位性の確立に資するなら、DX

導入の前に、誰のどの課題を解決し、何を変更したいのかを短く記述します。曖昧なら目的を合意してから取り組みを開始します。
成果の指標を先に設定する
開始前に、変更したい対象ごとに指標を設定し、導入前の現在値を記録します。記録がないと改善幅を比較しにくくなります。DXを実施している企業のうち成果指標を設定しているのは23.9%です。設定していない理由で最多なのは設定方法が分からないという回答の36.0%です。
指標は課題に対応させます。スポーツクラブの例では課題が退会なので、顧客や収益の指標は退会率や継続して利用される割合です。売上は会員数や料金改定にも影響されるため、変更前の水準と比較し、ほかの要因も確認します。効率化の指標は作業時間、コスト、処理にかかる日数です。

指標を設定している企業のうち対象が社内の効率化である割合は80.0%、新たなビジネスや顧客価値の創出である割合は33.5%です。顧客や収益に関する指標があるかを確認します。目標とする姿と現在の姿との差を定量的に把握することが求められています。
誰がDXを主導するか。IT部門に一任してよいか
IT部門だけに担当させず、経営者が主導します。DX推進はIT部門ではなく経営陣や取締役会の役割とされ、IT部門や事業部門などが連携して推進することも記載されています。成果が出ている企業で経営者、IT部門、業務部門の協調ができている割合は72.9%、出ていない企業では37.1%です。
どの事業の何を変更するか、予算、優先順位の決定の責任は経営者にあり、業務部門とIT部門は共同で、変更する業務、実現手段、導入後の運用を設計します。技術上の制約やデータの活用可能性は業務の設計に影響するため、IT部門を実装の担当に限らず、部門の目標が衝突するときは経営者が裁定します。

情報システムを兼任者が担当する会社でも、実作業の担当者と、何を変更するかを決定する経営者は、別の人でも成立します。
DXを実施する必要があるか。電子化で十分な場合
すべての企業が主体的にDXを推進する必要があるとされています。一方で、DXという名前の体制や大規模な投資が必要かどうかは、課題の規模、効果、利用できる資金や人材によって決定されます。
従業員100人以下でDXを実施していない企業の54.0%は、実施するメリットが分からないと回答しています。
課題の所在で区分します。
- 課題が転記、集計、保管、受け渡しといった社内作業の手間に限られる場合は、紙やFAXの電子化と業務の効率化から開始する
- 顧客の不満や解約、採算の悪化、需要に対応しきれない状況、競合による新規の提供方法といった状況がある場合は、売上に反映される前でも、商品や売り方の変更案を評価し、実行を決定する
- 人手不足で事業の継続が困難な場合は、電子化と業務の効率化だけでなく、商品や売り方の変更案も評価して、実行を決定する

電子化から開始しても、人手不足が生じていないか、仕事が特定の人に依存していないか、今後の成長機会があるかを定期的に確認します。
よくある誤解
AIを導入すればDXになる
国内企業ではAIの導入は拡大していますが、活用は業務の効率化と迅速化が中心で、企業価値の創出への展開は限定的という調査結果が示されています。AIはDXの手段の1つです。
DXは大企業の取り組みである
取り組み状況には規模で差があります。従業員1,001人以上の企業の98.7%がDXを実施する一方、100人以下では41.6%です。DXの対象は企業規模に関係なくすべての企業とされています。

成果が出ている企業には、経営者のデジタル見識、部門間の協調、全社の業務プロセス最適化という傾向があります。成果を保証するものではなく、関連を示す分析です。
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