KPIとは
KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)は、目標に対する進捗や達成度を、数値で定期的に確認する指標です。KPIは意図した結果への進捗の尺度とNISTの用語集で定義されています。
具体像はECサイトの30日以内の再購入率や、申請システムの申請から承認までの日数を、毎月確認する姿です。健康診断で血圧を毎月測定し、基準を逸脱したら生活を改善する姿に近いです。期末前に、取り組みの継続か変更かを決定できます。

日本では最終成果の指標をKGI(Key Goal Indicator、重要目標達成指標)、取り組みの指標をKPIと呼び分ける例が人事院の政策評価の手引きなどにあります。ECサイトの例では売上高がKGI、再購入率がKPIです。
SLA(Service Level Agreement)は、水準を達成できなかった場合の結果まで含む利用者との約束です。一方、KPIは進捗を確認する指標です。
成果の確認が完成後や期末だけだと何が問題か
システム開発や業務改善では、目標が業務の効率化のように言葉で設定されます。成果の確認が完成後や期末だけだと、途中の判断材料が乏しくなります。売上や利益は月次決算で期中にも確認できますが、その合計額だけでは変動の理由までは分かりません。
ROI(Return on Investment、投資利益率)のような財務会計の指標は、継続的な改善にとって誤認を招く信号になることがあるとされています。測定の仕組みは行動に顕著に影響するともされています。KPIも選定が不適切だと組織を意図と異なる方向へ誘導します。

効果
- 成果が発現する前に中間の状態を把握でき、方針を修正できる
- 部署間の優先順位の議論を共通の数字で進行できる
- 施策の前後を比較でき、中止の可否を決定する材料が蓄積される
コストとリスク
- 計測の仕組み: システムの操作記録であるログの収集、集計、ダッシュボードの構築と保守。手入力の集計は毎月の工数を要する。ログに基づく指標では自動アクセスの除外や重要な操作の記録の欠落の防止が課題になるとされている
- 定義の維持: 数え方を変更すると過去の値とそのまま比較できなくなるため、定義と変更履歴を管理する担当と、確認の会議が必要
- 人材: 数字から原因を調査する担当と、対処の権限者が必要
- 精度への過剰投資: 正確なデータを複数のシステムから収集する連携の構築は初期投資の費用対効果が不十分なことがある。ソフトウェア開発の指標を研究するDORA(DevOps Research and Assessment)の資料では、まず対話や簡易診断から開始することが推奨されている
- 数字の目的化: 例えばECサイトで再購入率を割引で向上させる場合は、再購入率に反映されない利益や返品率が悪化していないかも確認する

どの数字をKPIにするか
最終目標から逆算して、自分たちの行動で変動させられる数字に限定します。指標で進捗を追跡する対象を少数の重要な目標に限定する実践が、Googleの論文で紹介されています。個数は確認と対処を継続できる範囲に限定します。3〜5個程度は出典のない経験上の目安です。
目標、達成を示す兆候、兆候を測定する指標の順に決定する手順が、同論文に示されています。ECの再購入なら目標はリピート購入の増加、兆候は初回購入者の再購入、指標は初回購入から30日以内の再購入率です。分母は30日が経過した購入者だけにします。観察期間が不足している購入者を含めると、再購入の機会を十分に観察できず、過小評価するおそれがあります。
利用者の増加に伴って増加する総数より、比率や利用者あたりの値のほうが有用なことが多いとされています。比率は分母の減少だけでも上昇するため、分子と分母の件数も確認します。

申請システムなら承認待ちで生じる停滞の削減を目標とし、申請から承認までの日数の中央値と差し戻し率を指標とします。
中央値は日数を整列した中央の値で、件数が偶数なら中央2件の平均です。平均と異なり、極端な長期案件に左右されにくい値です。未承認のままの案件は含まれないため、その件数を別に確認します。
測定手段のない指標はまず既存の記録や簡易集計で確認し、確認する価値が分かってから自動化に投資します。
目標値の置き方
目標値は現状を測定してから決定します。改善の開始前に現在の水準を基準値として測定することが推奨されています。基準値に想定する改善幅を反映し、達成期限を設定して目標値とします。
KPIの選定時に確認する3点
- 指標ごとに、確認する人と対処の権限者が確定していること。基準から逸脱したときに何を変更するかまで決定する
- 確認の間隔が適切であること。効果の判断は成果が発現する速度に対応させ、急な悪化を検知する指標は途中でも確認する
- 先行の指標と遅行の指標が両方あること。先行指標は将来起こりうる変化を示し、遅行指標は過去の実績を反映するとされている。申請システムなら承認待ちの件数が先に増加し、承認までの日数が後から長期化する

KPIを達成したのに成果が実現しないときは何を確認するか
KPIと最終目標の関連が仮説にすぎなかった可能性を検討します。ページ閲覧数が増加する理由は、機能の人気の場合も、分かりにくい画面で利用者が混乱した場合もあるとされています。
登録者数をKPIにして割引で獲得しても購入に到達しなければ、最終の成果は変化しません。

- 成果が発現するまでの期間が経過し必要な件数を確保できたか、計測の欠落や集計条件の変更がないかを検証する
- 施策の前後で、購入や継続の増加、問合せの減少といった最終の成果に近い数字が変化したかを確認する。前後比較は季節性や別の施策の影響を分離できないため、可能なら施策を適用しない集団を比較群として対比する
- それでも変化がなく、KPIと成果の関係が希薄と評価したら、KPIを再選定する
KPIを担当者の評価や報酬に連動させてよいか
連動させるなら数値だけで個人の貢献を判断せず、担当範囲と案件の難易度も確認し、逆方向に作用する指標を併用します。1つの指標だけで評価に直結させるのは避けます。

指標そのものを目標にするとGoodhartの法則が作用し、指標を操作しようとする可能性が増大するとDORAの資料で注意されています。Goodhartの法則は測定値が目標になると良い測定値でなくなるという経験則です。
例えば問合せ対応の平均所要時間だけを評価すると、対応を早期に終了して同じ問合せが再発することもあります。再問合せ率と併用すればその動きは数字に反映されます。難易度の高い案件を避ける行動は数字に反映されにくいため、数字だけで決定しません。
責任を負わせる範囲も確認します。例えば売上は開発チームの外にある要因にも左右されるため、関係部門の共同目標にできても、開発チームだけの評価基準には不向きです。開発チームには自分たちで変動させられる数字を指標に設定します。例はDORAの指標に含まれるコミットから本番に反映されるまでの時間や、失敗して即時対応が必要になったデプロイからの復旧時間です。自チームの推移を確認します。
KPIを設定しない場合と設定に条件がある場合
- 数字がなくても進捗と結果を確認でき、失敗の影響も軽微な改善で、集計しても判断が変化しない場合は、KPIを設定しない
- 仮説を検証する最小限の製品を提供して反応を確認するMVP(Minimum Viable Product)で、利用者が少ない段階。割合は1人の行動の違いで著しく変動するため、割合のKPIだけでは判断せず、件数と個々の利用の観察を併用する
- 先に目標と責任者を決定し、KPIの設定はその後にする。目標が未定、または指標を変動させる手段と権限のどちらもない場合が該当する

よくある誤解
測定できる数字はすべてKPIになる
測定できることと、判断に利用できることは別です。目標値、確認する人、行動が未確定の数字は、参考値として別に管理します。

KPIは途中の数字に限られる
KGIとKPIの呼び分けは日本の政策評価などにあるものです。週あたりの販売数や製造数、製造にかかる時間、財務比率も、Business QueenslandではKPIの例として示されています。会議では何を測定する指標かを確認します。
一度決定したKPIは変更してはいけない
目標が変更されればKPIも再選定します。数え方を変更するときは変更日と理由を記録します。
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