ビジネスサイドのための IT 用語集/開発手法・プロセス

要件定義とは

ようけんていぎ

新しいシステムで何をどこまで実現するかを、開発の前に決定して文書化する工程です。決定する責任は発注側にあり、範囲が確定していないなら要件定義だけを先に別契約で締結するほうが、見積もりの前提が発注側と開発会社で一致しない事態を防止しやすいです。

要件定義

要件定義とは

新しいシステムで、どの業務をどこまでシステムに担わせるかを開発の前に決定し、文書化する工程です。業務の流れをどう変更するかを業務要件として先に定め、それを実現するために画面や帳票で何ができればよいかをシステム要件として定めます。処理の速さや安全性、止めてよい時間帯のように機能以外の条件は非機能要件と呼び、要件定義の中で一緒に定めます。

完成した要件定義書は開発会社が基本設計をし、見積もりを提示する前提になります。完成したシステムを受け入れるかどうかを確認する基準にもなります。

IPA(情報処理推進機構)と経済産業省が2020年に公表した第二版の情報システム・モデル取引・契約書は、システム化の企画と要件定義を合わせて超上流工程と呼び、設計より前に置いています。開発会社の提案書で超上流と記載されていたら、この2つの工程を指します。

なぜ必要か

何を開発するかを決定しないまま開発を開始すると、業務部門は画面ができてから想定との違いに気づきます。その段階で作り直しが発生します。後の工程で発見されるほど、設計、作り込み、テストをやり直す範囲が拡大します。

もう1つの理由は見積もりです。何を開発するかが曖昧なままでは、開発会社は確かな費用と納期を提示できません。曖昧さを解消しないまま固定額で契約すると、確定していなかった部分の扱いを巡って追加費用や納期の争いになりやすいです。

発注側と開発会社の役割

要件を決定する責任は発注側にあります。IPAはユーザのための要件定義ガイドの公開にあたり、システムを使って事業に貢献する役目を負うユーザに責任があると説明しています。モデル契約書も要件定義書は発注側が作成し、開発会社は作成を支援する形を想定しています。

開発会社が担うのは次の作業です。

  • 決定が必要な事項の洗い出し
  • 進め方の設計
  • 技術的に実現できるかどうかと、費用への影響の説明
  • 文書化の支援

効果

  • 見積もりの精度が向上する。確定したことと確定していないことが区別され、複数の開発会社の見積もりを同じ前提で比較できる
  • 手戻りが減少する。業務部門の想定とシステムの仕様の違いを、開発を開始する前に発見できる
  • 範囲の膨張を抑えられる。後から生じた要望が当初の範囲か追加かを要件定義書で判定できる
  • 受入れの基準になる。納品時の受入れテストで、要件定義書に照らして合否を判定できる

コストとリスク

  • 業務部門の時間を取られる。業務担当者と責任者が打ち合わせ、資料の確認、社内の調整に時間を割く。通常業務と並行するため負担は小さくない
  • 日程が延びやすい。打ち合わせと確認が業務部門の都合に左右され、部署間の調整が長引くとその分だけ日程が後ろ倒しになる
  • 細部まで決めすぎると費用が増加する。利用するか分からない機能まで詳細に定めると開発量と開発費が増える。導入後の保守費用もその分だけ増加し続ける
  • 決め切れないまま進行すると、途中で要件が変化する。社内の合意が取れないまま次の工程に移行すると、設計や開発の途中で要件が変更され、追加費用と納期遅延が発生する
  • 非機能要件が漏れやすい。性能、セキュリティ、障害時の復旧時間は業務部門の要望に含まれにくく、開発会社から検討事項を提示してもらわないと抜けたまま進行する
  • 完了の条件を定めない準委任では、決め残しの多い文書しか得られないことがある。作業は期間の満了で終了するため、要件定義書に何が記載されていれば完了とするかを契約時に定めておく
  • システムの移行では現行の仕様が不明な場合がある。担当者の異動や資料の散逸で今のシステムの処理内容を誰も説明できない場合、現行と同じという記述しかできず、後で解釈の争いになる。モデル契約書の第二版公表にあたっても、システムの移行では要件定義の前に現行システムの調査が必要だと注意を促している

よくある誤解

要件定義書が確定したら変更できない

変更はできます。定めた手続きに沿って、費用と納期への影響を確認したうえで変更します。モデル契約書も確定後の変更は契約内容の変更手続きで処理する形にしています。口頭で追加した要望は費用と納期への影響が記録されません。

アジャイル開発なら要件定義を必要としない

アジャイル開発でも要件定義は必要です。全体を最初から詳細には定めず、目的、範囲の大枠、優先順位を先に決定し、細部は開発しながら短い間隔で決定していきます。
決定する責任が発注側にある点に変化はありません。

判断の問い

要件定義は開発会社に任せてしまってよいか?

作業の多くは委託できますが、決定は委託できません。業務をどう変更するか、どの要望を優先するか、予算に収めるために何を削るかは発注側が決定し、要件定義書を承認するのも発注側です。一任した場合は開発会社が推測で補った要件がそのまま設計に反映され、受入れテストの段階になって業務の実態との不一致が判明します。

社内ではまず意思決定者を1人選定します。利用する部署が1つならその部署の責任者でかまいません。複数の部署にまたがるなら部署間の優先順位を決定できる役職者が必要です。加えて、実務の担当者を各部署から1人ずつ選出し、要件定義の期間中は目安として週に半日から1日を打ち合わせと確認に充てます。情報システム部門が取りまとめを担うのはかまいませんが、業務部門の代わりに決定はできません。この体制が組めないうちは開発の開始時期を延期します。

要件定義だけを先に別の契約にすべきか、開発とまとめて頼むべきか?

何を開発するかがまだ確定していないなら、要件定義だけを先に準委任契約として発注します。準委任は成果物の完成ではなく作業の遂行に対して費用を払う契約で、開始する時点で中身を特定できない要件定義に適しています。請負は完成した成果物に対して費用を払う契約で、開発対象が確定していることが前提です。要件定義の結果をもとに開発の見積もりを改めて依頼できるので、曖昧な段階の見積もりで開発全体の金額を固定せずに済みます。IPAの情報システム・モデル取引・契約書も、要件定義を準委任とし、工程ごとに契約を結ぶ多段階契約と、要件が明確になった段階での再見積もりを採用しています。

開発と一括した固定額の請負契約は、開発する範囲がほぼ確定している場合に限ります。既製のクラウドサービスを標準機能の範囲で導入する場合や、既存システムの小さな改修がこれにあたります。範囲が確定しないまま一括で請け負わせると、開発会社は不確かな分を見積もりに上乗せするか、確定していなかった部分を後から追加費用として請求するかのどちらかになります。どちらも発注側の得になりません。

別契約にすれば要件定義書をもとに提案依頼書であるRFP(Request for Proposal)を作成し、開発を別の会社に依頼する選択肢もあります。ただし要件定義を担った会社は業務と決定の経緯を把握しているので、開発会社を変更すると引き継ぎの手間がかかります。

要件定義にはどのくらいの期間と費用をかければよいか?

企画を除いた開発の工期の2割前後、工数の1〜2割程度が目安です。JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)のソフトウェア・メトリクス調査2025は、工程を要件定義、設計から結合テストまで、総合テストの3つに分けています。その比率は工期で20対50対30、工数で15対60対25です。全体で1年かかる開発なら2〜3か月を要件定義に充てる計算です。この調査はユーザー企業の比較的大規模な案件が中心で、小規模な案件にそのまま当てはめると期間が長めに算出されます。要件定義は少人数で決定していく工程なので、人を増やしても期間は短くなりにくいです。

要件定義に時間をかけるべきなのは次の場合です。

  • 利用する部署が目安として3つ以上にまたがる
  • 現在稼働しているシステムを別のシステムへ移行する
  • 社外のシステムや取引先と多くのデータを連携する

システムの移行では現行の仕様を調査する作業が加わるため、この比率より期間が長くなる傾向にあります。

簡略にしてよいのは1つの部署だけで利用する業務ツールや、既製のクラウドサービスを標準機能のまま利用する導入です。この場合は目安として数日から2週間程度で、目的、範囲、やらないこと、受入れの条件を数ページに整理すれば十分です。逆に、全体で半年以上かかる開発のうち、要件定義に充てる期間が1割に満たない計画は、決め残しを開発中に持ち越していないかを開発会社に確認します。

公開日
2026.10.21
更新日
2026.10.21

お問合せ

事業の課題や技術的な悩みなどどんなことでもお聞かせください

お問合せ